不動産の名義を持っている人が亡くなったときにする「不動産の名義変更」のことです。
ある人が亡くなった場合、その人の財産(遺産)は、相続人に移転します。遺産の中に土地や建物などの不動産に関する権利がある場合、法務局でその名義変更の手続をすることになります。
この名義変更の手続のことを相続登記と言います。
不動産に関する権利には、所有権だけでなく、地上権や賃借権・(根)抵当権などもありますので、亡くなった人がこれらの権利の名義人として登記されていれば、これらの権利についても相続登記をすることになります。また、亡くなった人が(根)抵当権の債務者として登記されている場合にも、(根)抵当権について相続による変更の登記をすることになります。
すぐにしなければならないわけではありませんが、放っておくといろいろな問題が…
※法改正により、相続または遺贈により不動産の所有権を取得した相続人は「自己のために相続開始があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続等の登記をすることが2024年4月1日から義務化され、正当な理由なくこれを怠ると過料の制裁が科されることになりました。
不動産の権利の登記をすることは、現時点では法律上義務付けられているわけではありません。ですから、相続があった場合に相続登記をしないまま放っておいても、法律上罰せられることはありません。ただし、相続登記をしないで放置した場合、次のような問題が起こることが考えられます。
相続登記を省略することはできません。
相続した不動産について、売却して買主に所有権移転登記をしたり、金融機関の抵当権設定登記をしたりするためには、必ず前提として相続登記をして不動産を相続人名義に変える必要があります。そのため、相続登記をせずに放置すると、次のような事態になることも考えられます。
例えば、Aが亡くなってB・Cが相続人となった後、Aの不動産はBがすべて相続するという遺産分割の口約束をしたものの、協議書を作成せず相続登記もしていなかったとします。
その後、Bが相続することになった不動産を高く買ってくれるというDが現れたので、Bが不動産を売ってDの名義に所有権移転登記をすることになったという場合、不動産をAの名義から直接Dに移すことはできません。
この場合、まずBへの相続登記をする必要があります。ここで慌てて遺産分割協議書を作って相続登記をしようとしても、事情を知ったCが素直に協力してくれるとは限りません。
相続登記をしないと抵当権の抹消登記もできません。
住宅ローンを利用して家を購入した方が亡くなった場合、一般的には団信(団体信用生命保険)により住宅ローンが完済になります。この場合、住宅ローンの抵当権も消滅しますので、抵当権抹消の登記をすることになりますが、不動産が亡くなった方の名義のままでは抵当権の抹消登記をすることはできません。
このようなケースでは、相続登記をして不動産を相続人名義にしないと、抵当権の抹消登記をすることはできないのです。
被相続人から相続人への相続登記と、買主への所有権移転登記はまとめて(連件申請で)行うことができます。
不動産の登記名義人が亡くなっている場合、相続人がその不動産を売却するときは、「①いったん相続人名義に相続登記」をしてから「②買主名義に所有権移転登記」をする必要がありますが、①の登記が完了してからでないと②の登記申請ができないというわけではありません。
①②の登記は同日に「連件申請」という形でまとめて申請することができます。
不動産の登記名義人が亡くなっている場合に、相続人が金融機関から融資を受けて不動産に抵当権を設定する場合も同様で、相続登記と抵当権設定登記を連件申請することも可能です。
また、住宅ローンで家を購入した方が亡くなり、団信で住宅ローンが完済された場合の相続登記と抵当権抹消登記も、連件申請が可能です。
一般的なケースでの相続登記の必要書類は次のとおりです。
◇被相続人(亡くなった人)に関する書類
◇相続人に関する書類
◇遺産分割協議をする場合
◇相続の対象となる不動産に関する書類
◇その他
昔に作られた遺産分割協議書でも、要件さえ満たしていれば相続登記で使用できます。
遺産分割協議書を作成したまま、相続登記をしないで何十年も放置してしまうケースはよくあります。
このような場合、その遺産分割協議書を使って相続登記をすることができるのか心配になるところですが、一般的な遺産分割協議書の要件さえ満たしていれば、問題なく相続登記のための書類として使用できます。
遺産分割協議書には、相続人全員が署名(又は記名)のうえ、実印で押印し、印鑑証明書を添付する必要がありますが、相続登記に関しては遺産分割協議書に添付する印鑑証明書に有効期限はありませんので、古い印鑑証明書であっても使用できます。
遺産分割協議後、相続登記をしないうちに遺産分割協議に参加した相続人が亡くなってしまう場合もありますが、このようなケースでも、遺産分割協議書の内容に従って相続登記をすることができます。
中間の相続人を省略して相続登記できる場合があります。
二代以上にわたって相続が発生している場合、原則として、(1)「最初の被相続人→一次相続人」、(2)「一次相続人→二次相続人」というように、相続登記を2回以上行う必要があります。例えば、被相続人甲の子がABの2名だったが遺産分割協議などを行わないままABとも亡くなり、AをX、BをYがそれぞれ相続した場合、被相続人甲名義の不動産について、直接XとYの名義に相続登記をすることはできず、(1)いったん甲→A・Bの名義に相続登記したうえで、(2)A→X、B→Yにそれぞれ相続登記をする必要があります。
例外的に「中間が単独相続」の場合は、中間の相続を省略して最後の相続人名義に直接相続登記をすることができます。
「中間が単独相続」というのは、次のようなケースです。
①一次相続人が1名のみだった場合(「家督相続」もこれにあたります)
②一次相続人が数名いたが、遺産分割協議で相続人のうちの1名のみが遺産を相続すると決めた場合
③最初の被相続人が「遺産はすべてAに相続させる」という内容の遺言書を遺していた場合
以上のように、中間の相続で遺産を相続する人が1名だけであれば、最終の相続で遺産を相続する人が2名以上でも、中間の相続を省略して最終の相続人名義に登記することができます。
三代、四代にわたって相続が発生している場合でも同様です。
被相続人の親族の構成によりますが、法定相続人と法定相続分は大きく分けると次のようになります。
※ⅰ 婚姻外の子(婚外子=非嫡出子)の相続分は、平成25年9月4日の最高裁決定後に開始した相続については、婚姻による子(嫡出子)と同じとなります。上記の最高裁決定前に開始した相続については、従来どおり婚外子の相続分は嫡出子の1/2となります。なお、婚外子は、認知されないと相続人にはならず相続分もありません。
※ⅱ 「父母の双方が同じ兄弟姉妹」と「父母の一方のみが同じ兄弟姉妹」がいる場合、後者の法定相続分は前者の1/2になります。
相続人となるべき子又は兄弟姉妹が先に亡くなってしまっている場合は、その子又は兄弟姉妹の子が相続人(代襲相続人)となります。
子の代襲相続人になるべき人も亡くなってしまっている場合は、更にその子が代襲相続人となります(再代襲)が、兄弟姉妹の代襲相続人になるべき人が当初の被相続人より前に亡くなっている場合は、その子が代襲相続人となることはありません。
これに対し、当初の相続が発生し相続人となった人がその後に亡くなった場合は、代襲ではなく数次相続となります。この場合、亡くなった相続人の相続人が、当初の被相続人についての相続人の地位を承継することになります。兄弟姉妹の代襲相続人が、当初の被相続人よりも後に亡くなった場合は、代襲相続人の相続人が当初の被相続人の相続人としての地位を承継することになりますので、相続開始の前後関係には要注意です。また、代襲相続と数次相続では、相続人の地位を承継する人の範囲も異なりますので、注意が必要です。
相続放棄又は限定承認をすることによって、被相続人の負債を相続しないことができます。
自分が相続人となったことを知ってから、そのまま3か月経過すると、単純に相続をすることを承認したことになり、被相続人の財産だけでなく借金などの債務も当然に相続することになります(単純承認)。
しかし単純に相続するのが不都合な場合も考えられるため、ケースに応じた相続の方法が法律上用意されています。
相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰がどの遺産を相続するかを決めるのが一般的です。
具体的な遺産分割の方法には次の3つがあります。
以上のような方法(組み合わせることもできます)により、相続人全員が協議して分割の内容を決定します。
また、Q13の「相続分の譲渡」と遺産分割協議を組み合わせることにより、相続人の利害を調整する方法も認められます。
遺産分割協議は、相続人が全員集まって話し合いにより行わなければならないものではなく、相続人間の大まかな合意内容をもとに弁護士や司法書士が書面(遺産分割協議書)を作成し、この書面を持ち回りで調印するような方法をとるのが一般的です。
遺産分割協議は、相続人全員が協議内容に合意する必要があり、1人でも同意しなかったり協議に参加していないような場合(他に相続人がいることを知らずに協議を行った場合を含みます)は効力が生じません。
協議が成立したら遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・実印で押印して印鑑証明書を付します。当事者間で協議が調わない場合は、家庭裁判所に調停や審判を求めることもできます。
遺産の一部についてのみの遺産分割協議も有効です。
被相続人にいくつかの遺産がある場合、その全部の遺産分割については合意が成立していなくても、一部については誰が相続するか話がまとまっているという場合があります。このような場合、その一部についてのみ遺産分割協議を成立させ、特定の相続人が相続することにすることも可能です。
また、遺産の中に不動産があり、これだけ先に売却して現金化する必要があるような場合、他の遺産分割については合意が成立していなくても、この不動産だけ売却して売却代金を一定の割合で分けることなどについては相続人全員が合意しているのであれば、この不動産だけについての遺産分割協議を成立させ、これに基づき相続登記を行うこともできます。
遺産分割協議書には、相続人全員が調印する必要がありますが、必ずしも相続人全員の連名にする必要はありません。
相続人の人数が多い場合や住所が離れている場合などは、連名の遺産分割協議書を持ち回りすると全員が調印するのに時間も手間もかかりますし、途中で書類を紛失した場合などは最初から調印をやり直すことになってしまします。
同じ内容の遺産分割協議書を相続人の人数分作成し、各相続人が1部ずつ調印するという形式でも、相続人全員が調印したものが揃えば、遺産分割協議書として問題なく相続登記や金融機関での手続に使用することができます。
複数の相続人がいる場合、ある相続人から他の相続人に対し「相続分の譲渡」を行うことにより、遺産を特定の相続人にまとめることができます。
相続分の譲渡とは、ある相続人から他の相続人(または第三者)に対し、遺産全体に対して相続人が有する権利を有償または無償で譲渡することです。相続分の譲渡(売買または贈与)が行われると、譲受人は遺産全体に対して譲渡人が有していた権利を包括的に取得し、譲渡人は遺産に対する相続人としての権利を失い、遺産分割協議の当事者から外れます。なお、相続分の譲渡をしても、債務については相続分の譲渡の効力を債権者に主張することはできません。
例えば、相続人が3名(A・B・C)いる場合に、BがAに相続分を譲渡すると、Aは遺産についてBが有していた権利を取得します。すると、遺産に対して権利を有する相続人はA・Cのみになりますので、A・C2名で遺産分割協議をして誰が遺産を相続するのかを決定することができることになります。この場合、相続分を譲渡したBは遺産分割の当事者から外れます。
また、B・CがAに対して相続分を譲渡すると、遺産に対して権利を有するのはAのみとなりますので、Aが遺産をすべて相続することになり、A・B・Cが遺産分割協議をしてAが遺産を全て相続することに合意したのと同じ結果になります。
遺産分割協議は原則として相続人全員が参加して合意することが必要ですが、相続人の人数が多く調整に時間がかかりそうな場合や、相続人の間で争いがある場合には、「相続分の譲渡」により特定の相続人から相続分を買い取るなどして遺産分割協議の当事者から外れてもらうことで、利害の調整を容易にすることが期待できます。
相続分の譲渡をする場合、「相続分譲渡証書」等の書類を作成しますが、法務局などの公的機関や銀行などの金融機関に提出する書類ですので、譲渡人の実印での捺印と印鑑証明書が必要となります。
遺産分割協議で特定の相続人が債務を相続すると決めても、債権者にこれを主張することはできませんが、債権者との契約又は債権者の同意があれば、特定の相続人だけが債務を相続することにすることも可能です。
遺産には、金融機関からの借金のような消極財産が含まれる場合がありますが、これも相続の対象となります。
例えば相続人がA・B・Cの3名(法定相続分は各1/3)で、遺産の中に3000万円の債務がある場合、A・B・Cは各1000万円の債務を相続することになります。このケースで、遺産分割協議書で「債務はAのみが相続する」と決めたとしても、これはAがB・Cの債務を免責的に引き受けるということですので、債権者の同意がなければこれを債権者に主張することはできません。
この場合、①Aのみが債務を相続するという遺産分割協議を債権者に同意してもらう、又は②いったん、法定相続人全員が債務を相続したうえで、A・B・C間で免責的債務引受の契約をして債権者の同意をもらう、のいずれかの方法によりAのみが債務を負担することにできます。
なお、債務について抵当権が設定されている場合、債務者の変更の登記を申請することになります。上記①のケースでは、相続開始の日付で「相続」を原因として債務者をAとする変更登記をすることができます。上記②のケースでは、いったん債務者を法定相続人全員(A・B・C)とする変更登記をした上で、「B及びCの債務引受」を原因として債務者をAのみに変更する登記をする必要があります。銀行などが抵当権者になっている抵当権では、②の方法によることが多いといえます。
未成年の子の親も相続人となる場合や、相続人に未成年の子が数人いる場合は、特別代理人を選任して遺産分割協議をする必要があります。
未成年者は、単独で遺産分割協議をすることはできませんので、親権者などの法定代理人が未成年者に代わって遺産分割協議をすることになります。しかし、親の一方が亡くなった場合は、他方の親とその子が相続人となり、相続に関して利害が対立する関係(利益相反)となるため、親が適切に子を代理することは期待できません。
また、親が相続人とならない場合でも、数人の未成年の子が相続人となる場合に、親がその全員を代理して遺産分割協議をするとしても、同じことが言えます。
このような場合には、家庭裁判所に申立をして未成年者のために特別代理人を選任してもらい、特別代理人が未成年者に代わって遺産分割協議をする必要があります。 特別代理人選任の申立は、特別代理人の候補者を指定して行いますが、子の叔父や叔母などの近親者を候補者として申立をし選任してもらうのが一般的です。
認知症等で判断能力に問題がある人がいる場合、その人のために成年後見人又は保佐人、補助人を選任して遺産分割協議をすることが必要になる場合があります。
遺産分割協議をすることは相続人の財産に大きな影響を与えますので、これを行うには正常な判断能力(民法上の「行為能力」)が必要とされ、判断能力に問題のある人が参加した遺産分割協議は、後で取り消されたり無効とされたりする可能性があります。
現在は、認知症などで判断能力に問題がある人については、判断能力の程度に応じて成年後見人や保佐人、補助人を選任し、これらの人が本人を代理して遺産分割協議をしたり、本人が遺産分割協議を行うに当たって同意をしたりすることで遺産分割協議を有効に行うことができます。
成年後見人や保佐人、補助人は、家庭裁判所に請求をして選任してもらいます。
なお、成年後見人や保佐人等が本人を代理して遺産分割協議を行う場合、特別な事情がある場合を除き、本人のために法定相続分以上の相続分を確保することが必要となります。相続人となった成年被後見人等の相続分をゼロにするような遺産分割協議は認められませんので、注意が必要です。
行方不明の相続人のために不在者財産管理人を選任し、不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議を行います。行方不明者の生死が長期間不明の場合は、失踪宣告の制度を利用することも可能です。
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、相続人の中に行方不明者がいるからといって残りの相続人だけで遺産分割協議をしても無効です。 相続人の中に行方不明者がいる場合は、その人のために不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に請求し、不在者財産管理人が家庭裁判所から「権限外行為の許可」を得たうえで、本人を代理して遺産分割協議を行うことになります。
なお、不在者財産管理人が本人を代理して遺産分割協議を行う場合、成年後見人等の場合と同じく、特別な事情がない限り、本人のために法定相続分以上の相続分を確保することが必要となります。相続人となった不在者の相続分をゼロにするような遺産分割協議は基本的に認められません。
行方不明の相続人の生死が長期間(原則:7年、 戦争・船の沈没・震災などの原因の場合は、その原因が去ってから1年)にわたって不明の場合、その相続人について失踪宣告を受けることにより、その相続人は死亡したものとみなされますので、失踪宣告を受けた相続人の(代襲)相続人が遺産分割協議の当事者となります。失踪宣告は、他の相続人などの利害関係人が家庭裁判所に請求できます。
遺言が有効なものであれば、その内容に従って相続の手続を行うことになります。
遺言では、遺産分割方法の指定(ex.妻Aは○○の土地を取得する。長男Bは××の建物を取得する・・・)や、相続分の指定(ex.妻Aは財産の2/3を相続する。長男Bは財産の1/3を相続する・・・)、遺贈、遺言執行者の指定、認知、相続人の廃除などをすることができます。
遺言で遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が遺言の執行に関するすべての権限を有することになりますので、それ以外の者が遺言を執行したとしても無効です。なお、遺言執行者の指定は遺言でしかできませんので、遺言した人が生前に「遺言執行者はA」と指定していたとしても、遺言に記載されていなければ、その指定は無効です。
遺言の方式等は法律で定められており、遺言が法律上の規定に従って作成された有効なものであれば、その内容のとおりに相続の手続を行うことになります。
遺言の方式には、大きく分けて普通方式と特別方式の2つがあります。特別方式は、普通方式の遺言ができない特殊な場合にとられる方式で、通常の遺言は、普通方式で作成されます。
普通方式の遺言には、次の自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの種類があり、それぞれ以下のとおり方式が定められています。なお、遺言の方式により効力に優劣があるわけではありません。
自筆証書遺言・・・文字どおり、遺言者がすべて自筆で作成する遺言です。
①全文を遺言者が自筆で書く。
②日付がある。
③署名がある。
④押印がある。(印鑑は認印でも拇印でもOK)
※平成31年施行の民法改正により、自筆証書遺言の自書部分とは別の用紙に相続財産の全部又は一部の目録(財産目録)を添付する場合には、その目録の用紙については自書する必要はなくなりました。自筆証書遺言の自書部分と同じ用紙に、自書したものでない財産目録をつけることは認められません。財産目録としては、パソコンで作成した一覧表を添付したり、不動産の場合は登記事項証明書そのもの、預貯金の場合は通帳のコピーを添付することも認められます。財産目録を添付する場合は、その各ページ(両面印刷している場合は両面)に遺言者が署名・押印する必要があります。押印は、自書部分の印鑑と異なる印鑑でも構いません。
なお、自筆証書遺言(財産目録を含む)が用紙2枚以上にわたる場合、ホチキス止めして継ぎ目に契印することなどは法律上の要件とはされていませんが、改ざんの疑いなどで紛争になることを避けるため、ホチキス止めして契印することなどにより財産目録も含めて一体の遺言書であることが明らかになるようにするのが望ましいと言えます。
公正証書遺言・・・公証人が遺言者から遺言したい内容を聴取して文章化し、公正証書として作成する遺言です。
※口がきけない方が公正証書遺言をする場合の方法については、特則が定められています。
①証人が2人以上立ち会う。
②遺言者がその内容を公証人に口で説明する。
③公証人がその内容を書いて、遺言者と証人に読み聞かせる。
④遺言者と証人が間違いないことを確認し、署名・押印する。
⑤公証人が上記の方式に従ったことを書いて、署名・押印する。
秘密証書遺言・・・遺言者が遺言内容を秘密にしたい場合に、封印した遺言に公証人が証人とともに署名・押印して作成する遺言です。
①遺言者が作成(代筆・ワープロ等で作成したものもOK)した遺言書に署名(←これは自署)・押印する。
②封をして①と同じ印鑑で封印する。
③遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自分の遺言書である旨と氏名・住所を述べる。
④公証人が日付等を封書に記載し、公証人・遺言者本人・証人の全員で署名・押印する。
各方式の遺言について、いくつかの観点で比較してみると、以下のようなメリット・デメリットがあると言えます。
1.手続の簡便性・・・遺言書の作成そのものに関しては、自筆証書遺言が最も手軽と言えます。公正証書遺言・秘密証書遺言を作成するためには必ず公証人の関与が必要になるのに対し、自筆証書遺言は、作成しようと思ったときにいつでも一人で作成できるという点で最も作成が簡便であると言えます。
しかし、相続発生後の手続まで含めると事情は変わってきます。自筆証書遺言・秘密証書遺言は、必ず家庭裁判所で「検認」を受ける必要があり、検認を受けていない遺言書は、官公署・金融機関等の手続で遺言書として扱ってもらえないという問題があります。検認を受けるためには、遺言者の相続関係を証明する戸籍謄本等を取得する必要があるうえ、家庭裁判所によっては、検認の申立てをしてから実際に検認を受けるまでに1か月程度を要する場合があります。これに対し、公正証書遺言であれば検認は不要ですので、相続開始後すぐに、遺言に基づく相続手続を行うことができるという利点があります。
2.費用・・・遺言書の作成にかかる費用に関しては、実費の安い順に並べると、自筆証書遺言<秘密証書遺言<公正証書遺言となります。自筆証書遺言は、実費をほとんどかけることなく作成することが可能です。秘密証書遺言の作成には、公証人の手数料(11,000円の定額)がかかります。公正証書遺言については、遺言書に記載する財産の価額等に応じた公証人の手数料がかかります。
相続発生後の手続にかかる費用については、自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合、検認が必要となるため、裁判所の検認費用のほか、戸籍謄本等の取得費用、専門家に依頼した場合はその手数料などが発生します。公正証書遺言の場合、検認は不要ですので、相続開始後は追加の費用はかかりません。
3.安全性・・・せっかく遺言書を作っても、相続開始後に効力が発生しなければ意味がありません。遺言の効力が発生しなくなってしまうケースとしては、①遺言書が民法の方式に反し無効となる場合、②遺言書が紛失・破棄・焼失などの原因で物理的に消滅してしまう場合、③遺言能力、遺言意思を欠く(認知症等で遺言をする能力が認められない。本人の意思によらず無理やり遺言を作らされた・・・)等の理由で無効とされる場合などが考えられます。また、④遺言の内容(目的物や相続させる相手などの特定)が不明確で、実際の相続手続で遺言が意味をなさなくなったり、相続人や受遺者間で争いとなったりするケースもあります。
公正証書遺言は、公証人が本人と面談して意思確認をしたうえで公正証書として作成し、遺言書の原本は公証役場で保管されますので、①~④の原因で遺言が無効となる可能性は極めて低く、安全性が高い考えられます。
自筆証書遺言・秘密証書遺言は、①~④いずれの可能性も考えられ、安全性に問題がありますが、作成に当たり弁護士・司法書士等の法律の専門家からアドバイスを受けたり、遺言書の保管を依頼したりすることで、リスクを抑えることは可能です。
法律の定めた方式によらない遺言は無効です。
遺言の方式は、民法に定められており、この方式によらない遺言は無効となります。
動画や音声で記録された遺言や、単に相続人となる人を集めて口頭でなされただけの遺言は、法律上、効力を生じません。
また、遺言は書面で作成される必要がありますので、遺言者がパソコンのハードディスク等の記録媒体に遺言内容をデータで遺したとしても、法律上、遺言としての効力は生じません。
自筆証書遺言は、検認を受けなければ登記その他の公的手続で使うことはできません。
自筆証書遺言を登記原因を証する書面として相続登記をすることはできますが、公正証書遺言以外の遺言はすべて家庭裁判所で検認を受ける必要があり、検認のない自筆証書遺言を相続登記申請で添付しても登記は受理されません。
これは、登記に限らず金融機関で被相続人名義の口座の解約手続などを行う場合も同様で、検認を受けていない自筆証書遺言では遺産に関する相続手続はできませんので注意が必要です。
遺言書の検認は、亡くなった遺言者の最後の住所地の管轄家庭裁判所に申し立てて行いますが、東京家庭裁判所の場合、検認を申し立ててから検認期日に検認をするまで、1ヶ月程度かかるようです。
なお、当事務所に遺言書検認申立の書類作成等をご依頼いただく場合の費用につきましては、こちらをご覧ください。
公正証書遺言か秘密証書遺言であれば、公証役場の遺言検索システムで遺言の有無を照会できます。
自筆証書遺言は、遺言者が個人的に作成して保管するものですので、貴重品を保管しておく場所などをさがして見つけるしかありませんが、公正証書遺言・秘密証書遺言は公証人が関与して作成するものですので、日本公証人連合会のデータに記録されます。
相続人であれば、公証役場で遺言検索システムを利用して遺言書の有無を照会したり、遺言書の閲覧や謄本請求をすることが可能です。なお、秘密証書遺言は公証役場に保管されるものではありませんので、遺言書がいつどこの公証役場で作成されたかまでは検索できますが、閲覧や謄本請求をすることはできません。
遺言検索システムによる照会は、遺言者が生存している間は利害関係人の請求があっても受け付けてもらえません。遺言者の除籍謄本等を提出して遺言者が死亡したことを証明した場合に照会が可能となります。
要件を満たしている限りどの遺言書も有効ですが、前の日付の遺言書に後の日付の遺言書の内容が抵触するときは、抵触する部分については後の遺言書の内容が有効になります。
例えば、前の日付の遺言書に「甲土地はAに、乙土地はBに相続させる」と書いてあったのに、後の日付の遺言書では「乙土地はCに相続させる」と書かれていた場合、甲土地はAが相続することは変わりませんが、乙土地については、Cが相続するということになります。
更にその後の日付の遺言書が出てきて「乙土地はBに相続させる」と書かれていた場合は、乙土地をCに相続させるという遺言は撤回され、Bに相続させるというのが遺言者の最終的な意思だとみなされ、乙土地はBが相続することになります。
なお、遺言の種類によって優劣はありませんので、前の日付の遺言書が公正証書遺言で、後の日付の遺言書が自筆証書遺言だったとしても、内容が抵触する部分は後の自筆証書遺言の内容が有効となります。
相続人(兄弟姉妹を除く)には、その生計を維持するため、それぞれ最低限相続できる割合が法律で定められています。遺産のうち最低限相続できる割合を「遺留分(いりゅうぶん)」といい、遺言などで遺留分が侵害された相続人には、遺留分を取り返す権利があります。
遺留分を有する相続人を「遺留分権利者」といいます。各遺留分権利者が有する遺留分は、以下のとおりです。
※相続人が「配偶者と兄弟姉妹」又は「兄弟姉妹のみ」のケースでは、兄弟姉妹に遺留分はありません。この場合、亡くなった方が配偶者又は相続人以外の第三者に全財産を贈与又は遺贈していた場合には、相続人である兄弟姉妹は遺産を相続することはできなくなります。
遺留分にあたる遺産は当然に遺留分権利者のために確保されているものではなく、相続の発生後に遺留分を侵害する贈与や遺贈がされていたことが判明したときに、権利を行使してはじめて遺留分を取り戻すことができます。この権利行使を遺留分侵害額請求といいます。
遺留分侵害額請求は、相続財産が相続人以外の第三者に遺贈または贈与されていた場合に限らず、遺言や贈与により一部の相続人が多くの財産を取得し、他の相続人が遺留分を侵害された場合でも行うことができます。
遺留分侵害額請求は、相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺贈又は贈与があったことを知ってから1年以内にしなければなりません。また、相続開始から10年経過すると、相続開始や遺留分の侵害を知らなかったとしても請求できなくなりますので、注意が必要です。
遺贈に限らず、生前になされた贈与も、相続開始前1年内のものであれば遺留分侵害額請求の対象になります。
遺留分侵害額請求の方法については法律上特に規定がありませんので、遺留分を侵害している相手方に口頭で意思表示するだけでも効力を生じますが、裁判になることも多いため、証拠を残すために内容証明郵便を送って通知するのが一般的です。
成年被後見人であっても、意思能力があれば、医師の立会いの下に遺言をすることができます。
15歳以上で意思能力を有する人であれば、成年被後見人・被保佐人・被補助人であっても、民法上、遺言をする能力があることになります。
遺言者が成年被後見人の場合については、3人以上の医師が立会い、遺言をする時に事理弁識能力が回復している旨を遺言書に付記し署名押印するという手続が必要となります。被保佐人・被補助人はそのような手続を経なくても遺言をすることができますし、認知症などで判断能力に問題があるが後見開始等の審判を受けていないという方も、遺言をする時点で意思能力があれば遺言をすることができます。
しかし、意思能力のない状態で作成した遺言は無効ですので、判断能力に疑問がある方が遺言をする場合は、後日遺言の効力が争われるリスクを考慮して、成年被後見人の場合と同じ手続に従って遺言を作成した方が安全と考えられます。
また、この手続を経て作成された遺言でも、遺言時点で遺言者が意思能力がなかったと判断されれば遺言が無効となることがありますので、この手続を経るほかに、後日遺言能力が争われた際の証拠とするため、医師に診断書を作成してもらう、遺言者の生活状況・病気の状況等を細かに記録するなどして、遺言者の状況を記録しておくことも有効であるといえます。
遺言と異なる遺産分割協議は実務ではよく行われていて、判例でも有効と判断する方向にあるといえます。ただし、効力が認められない場合もありますので注意が必要です。
例えば、遺言の内容が特定の土地建物を相続人の一部の者に「遺贈する」という内容だった場合、遺贈を受けた人が自己に有利な遺言の内容を知りながらこれと異なる遺産分割協議を成立させると、遺贈の全部又は一部を放棄したものと認められ、遺産分割協議は遺言に優先します。
遺贈ではなく、遺言に特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と記載されている場合は、特定の財産は遺言により特定の相続人に当然に帰属しますが、遺産分割協議によりその財産を他の相続人が相続することにした場合、特定の相続人が遺言によって取得した取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解釈できますので、この場合も遺産分割を成立させることができると考えられます。
判例は、このような考え方によって遺言と異なる遺産分割を有効と判断する方向にあります。
ただし、遺言者が遺言と異なる遺産分割を禁じている場合や、遺言の内容が相続人でない者に対して遺贈するというものである場合には、相続人が遺言と異なる遺産分割協議を成立させたとしても効力が認められません。
遺言で遺言執行者を指定しておけば、その遺言執行者が遺言の内容を実現するための手続を行います。
遺言書を作成しても、その内容を実現してもらえるとは限りません。特に法定相続分と異なる配分を指定した場合や、相続人以外に遺産を与える内容の場合など、相続人が遺言執行に協力してくれるかどうか不安なときは、信頼できる相続人又は弁護士・司法書士などの専門家を遺言執行者として指定しておくべきです。
遺言執行者がいるときには、相続人は遺言執行の対象となる相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることはできず、これに違反されてなされた相続人の処分行為は無効であるとされています。
遺言執行者が任務を怠った場合は、利害関係人は家庭裁判所に解任の請求を行うことができます。また、遺言執行者の報酬についても、遺言で定めておくことができます。
家庭裁判所に遺言執行者選任申立をして、遺言執行者を選任してもらうことができます。
遺言執行者がいない場合、遺言に従って相続の手続を行うことが困難になるケースがあります。
例えば、遺言で不動産を遺贈された場合、遺言執行者がいれば、遺贈を受けた人(受遺者)は、遺言執行者との共同申請により遺贈による不動産の所有権移転登記をすることができます。しかし、遺言執行者が定められていない場合、受遺者は、原則として遺言者の相続人全員の協力を得ない限り、遺贈による不動産の所有権移転登記をすることができず、相続人の中に非協力的な人や行方不明者がいるようなケースでは、手続が困難となります。
このような場合、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立をすれば、事後的に遺言執行者を選任してもらうことができ、選任された遺言執行者に遺言に基づいて相続の手続をしてもらうことができます。この申立は、遺言に関する利害関係人(受遺者・相続人・遺言者の債権者等)であればすることができます。
遺言書を紛失してしまった場合、遺言書が公正証書か自筆証書か、自筆証書の場合は遺言書の検認を受けているか否かで、遺言書による相続手続の可否が異なります。
【公正証書遺言の場合】
公証役場で公正証書遺言を作成した場合は、その場で遺言公正証書の「正本」「謄本」が各1通交付されます。遺言者が亡くなったとき、それらの正本・謄本を紛失していたとしても、相続人は公証役場に請求して遺言公正証書の「謄本」を交付してもらうことができます。この謄本があれば、遺言書の内容に基づいて相続登記のほか金融機関などでの相続手続をすることができます。
【自筆証書遺言の場合】
1.検認を受ける前に自筆証書遺言を紛失した場合・・・その遺言書によって相続手続を行うことはできません。遺言書のコピーがあっても相続手続では使用できません。他に有効な遺言書がない限り、法定相続分又は遺産分割協議等により遺産を分割して相続することになります。
2.検認を受けた後に自筆証書遺言を紛失した場合・・・検認を受けた家庭裁判所に申立てることにより「遺言検認調書の謄本」を交付してもらうことができます。この「遺言検認調書の謄本」は、先例により相続登記の手続において相続証明書として認められています。
代表プロフィール
※当事務所は、登記申請をオンライン申請で行ないますので、不動産の所在地が全国どこでも、同じ費用基準で手続いたします。
〒101-0047 東京都千代田区内神田二丁目14番12号 サカビルⅡ 5F tel.03-6206-8870 fax.03-3251-8620
Copyright(C) 2012 Takazawa Judicial scrivener office